バランススコアカードと戦略マップ
企業経営の目標は「利益額」を増やすことです。
しかし、長期に渡る企業経営においては、まだおカネになっていない無形財産の部分についても中間指標として把握しておきたい場合があります。
たとえば当期利益は赤字でも、無形財産としてたくさんの新規リードを獲得できていれば、翌期以降の黒字に貢献するはずです。
そうした無形財産の状況を含めて、「財務指標だけでは見えない部分」を把握しておきたいのです。
それがバランススコアカードに注目した理由です。
バランススコアカードを使えば「財務の視点」でおカネの出入りを把握できるだけでなく、そこにいたるプロセスやそのプロセスから派生する情報や契約など、「見えない資産または負債」の状況をある程度把握することができるのです。
バランススコアカードの特徴
- 「4つの視点」で経営のバランスを見る
- 最終的には「財務の視点」に行きつく
- 「戦略マップ」をつくる
バランススコアカードの「4つの視点」とは
- 教育の視点
- 業務の視点
- 顧客の視点
- 財務の視点
「4つの視点」で経営のバランスを見る
KPIなどで厳密に数値管理する方法もありますが、個人的には「4つの視点」それぞれで戦略目標を立てて、「戦略マップ」を作成するだけでもやる意味はあると思います。
もし数値管理を行うのであれば、せっかくなので無形財産の価値についても概算できるようにしておくことをおすすめします。
教育の視点
AIの普及によるビジネス環境の変化が避けられなくなったいま、スタッフの「思考力」や「発想力」をアップデートするような教育を進めていくことが重要課題となります。
「従業員は会社の戦略や方針についてこられるだろうか?」
「経営幹部や部門のリーダーは、新たな商品開発や事業モデルの構築に寄与するだけの創造性を発揮できるだろうか?」
といった視点で、スタッフの「考える力」や「感性」に注目した能力開発を行うことが、これからの人材教育のトレンドとなるでしょう。
業務の視点
AIを活用した業務の効率化や外注費の削減によって、「利益率」を向上させたいという潜在的ニーズは、どこの業界や企業にもあると思います。
「全体戦略やビジネスモデルの転換につながるようなドラスティックな改革も吝かではない」という経営者もそのうち増えてくるでしょう。
商品開発や事業モデルに関する視点は、顧客への提供価値を創造する視点でもあります。
新たな価値提供に挑戦するときは、既存アイデアの「上位概念」を意識しながら思考実験してみてはいかがでしょうか。
抽象度の高い概念に視点を移すことで、さまざまな課題解決のアイデアが浮かんでくるかも知れません。
顧客の視点
顧客の視点というのは、マーケティングの視点でもありまます。
たとえば広告戦略においては、どれだけ効率よくターゲット層に知ってもらえるかがカギとなります。ウェブ上では、キーワード対策、リスティング広告の費用対効果、予想LTVの算出といった数字管理が求められます。
コミュニケーション戦略も大切です。たとえば、メルマガやブログを通じた情報発信、オウンドメディアの構築をはじめとしたメディア戦略、ランディングページではコンバージョン率を高めるための効率化(LPO)などが求められるでしょう。
ブランディング戦略では、「どれだけターゲット層との信頼関係がつくれるか」がポイントとなります。
結局これらは「無形財産」という話に行きつきます。そもそもあらゆる情報や人間関係が無形財産なのです。反対に、筋の悪い話であればマイナスの「無形負債」ということになります。
財務の視点
経営で最も大切な「利益額」をいかに最大化できるかを考える視点です。
利益額というのは結局おカネの出入りで決まってきます。そうしたおカネの出入りに焦点を当てるのが財務の視点です。
もちろん利益が出ればそこには「税金」がかかってきますし、おカネを借りれば「金利」の支払いが生じます。事務所や店舗を借りていれば「賃借料」もかかるでしょう。
その他、給料や仕入だけでなく、アウトソーシングをしていれば外注費が、広告を出せば広告費などがかかってきます。
費用が増えれば利益額は減りますが、無形財産の増加をもたらす費用というのもあります。たとえば広告費などがそれに当たります。魅力的なコンテンツをつくって広告を出し、そこに見込客をあつめれば、獲得したリード情報は無形の財産となります。
そんな「見えない財産」のことまできちんと管理・把握できていれば、その会社の経営見通しは明るいと言えるのではないでしょうか。
最終的には「財務の視点」に行きつく
バランススコアカードだからと言って、すべてのプロセスにKPIを設けて数値管理する必要はないと思います。むしろ「見えないもの」を炙り出し、把握できるような運用を心掛けたいところです。
「財務の視点」に行きつくまでに、さまざまなプロセスを経ておカネが費用や資産へと変換されていきます。そして、さまざまなプロセスを経て売上が発生し企業に収益をもたらします。
財務の視点で最も大切な「利益額」は、そうしたプロセスから生まれるひとつの結果でしかありません。利益額の増減だけでなく、おカネや形にはならない見えないところで、さまざまなものを得たり失ったりしているのです。
そうした「見えないもの」の増減も、経営者としてはできるだけ把握しておきたいところです。おカネとして現れたところしか見ていないと、どうしても「未来の予測」がつきにくくなります。
当期の収支には現れていない無形財産の増減についても、できるだけ正確に把握しておきたいものです。そうした無形財産が将来おカネに変換されて、翌期以降の収益につながってくるわけですから。
バランススコアカードの活用方法
投資に役立てる
経営上の投資活動をデザインする
- バランススコアカードの「4つの視点」をもとに戦略マップをつくる
- 経営プロセスを一覧できる戦略マップに投資額などの数字を落としこむ
- 経営上の投資に使った金額が財務に与える影響を定量的に把握する
企業経営も大きく見れば「投資」のひとつです。
たとえば新規顧客開拓のために思い切って広告費を使えば、それはある意味投資です。それどころか一般的な投資よりもギャンブル性の高い投資になる可能性があります。
クリック単価の上限を設定できるリスティング広告でさえ、表示されるランディングページの内容次第でコンバージョン率が変わるなどの不確定要素を残しています。
広告やメディアなどへの投資は、結局形に残らない無形財産への投資となります。その支出の多くは帳簿上費用として計上されますが、新規顧客というリターンをもたらして将来収益の増加に貢献する可能性を秘めています。
そうした将来への予測や見通しを立てやすくするのが、バランススコアカードの役割ではないかと考えます。将来収益の予測が立てば、「当期の広告費をどうするか」などの合理的な判断にも役立ちます。
戦略に役立てる
洗練された経営戦略には、シナジーやレバレッジといった仕掛けが組み込まれています。そうでないと「1+1>2」となるような経営戦略はなかなか描けません。
個別の戦術間にシナジーを働かせるためには、プロセスの把握とコントロールが大切です。バランススコアカードやビジネスモデルキャンバスは、そのための有効なツールとなり得ます。
バランススコアカードやビジネスモデルキャンバスを使って経営を可視化し、財務上の出入りやそのプラスマイナスにいたるプロセスを把握することは、経営戦略のブラッシュアップにもつながります。
特にバランススコアカードの作成過程でつくられる「戦略マップ」を活用することで、複数の戦術間にシナジーを働かせるような重層的な構造をつくりだすことも可能です。