【抽象化思考】本質を抜き出して考える
抽象化思考とは何か?
複雑な問題に直面したときに、そのまま考えようとしても人間の脳では処理しきれず消化不良を起こしてしまう場合があります。
そのまま放っておくと思考停止して、脳の活性が完全に失われてしまうことにもなりかねません。
そんな事態に陥る前に、直面した問題をシンプルに捉え直し、処理しやすいように情報を圧縮する方法があります。
それが「抽象化思考」です。
抽象化というのは、文字通りに捉えると「象る(かたどる)ものを抽出する」ということになります。
実際に抽象化は、「個別具体的な要素を取り除いて対象の持つ本質的な要素だけをピックアップし、大まかな概念として規定すること」という意味で使われています。
抽象化ができるようになるのは11歳頃からだと言われているよ。
確かに、その頃から変な「あだ名」をつけたりし始めるよね。
抽象化思考の特徴
抽象化はシンプル化でもあるため、ものごとの全体イメージを浮かび上がらせてくれます。
抽象化思考は、具体的に起こっていることの本質的な部分だけを抜き出して、一般化したりモデル化したりして考えるという思考法です。
ものごとを深く掘り下げるというよりは、俯瞰して考えるための思考法だと言えます。
調べてみると、抽象化には大きく2つの方法があるようです。
- 対象から本質的な要素や着目している側面のみをピックアップした上で、ひとつの概念として規定すること。
- 複数の対象に共通点や規則性を見出し、それらを組み合わせて一般的な概念を構成すること。
どちらにしても、対象をより上位の概念で捉え直すことが抽象化思考のポイントのようです。
どんなときに抽象化または具体化するのか
対象の細かい点はいろいろわかっているのに全体のイメージが掴み取れない、といった経験はありませんか?
そんなときは対象を「抽象化」してみるのがいいでしょう。
「つまり」「すなわち」「要するに」などと言い換えて、よりシンプルな言葉や概念で捉え直すのです。
それによって要らない情報をイメージから取り去り、特徴的な部分だけを際立たせることができます。
その結果、対象が「どんなものなのか」についてより本質的なイメージを持つことが可能となるでしょう。
「要するに私はATMだったのです」とか「つまり彼女はギャルなんです」といった言い換えも抽象化だよね?
まあ、そうだな。
反対に、全体のイメージは伝わっているのにどことなくぼやけていてわかりにくい、対象がどんなものなのか想像しづらいといった場合があります。
そういう場合は「具体化」をすればいいのです。
抽象化とか具体化というのは、顕微鏡などで「焦点を合わせる作業」と似ています。
自分や相手にとって見えやすいように伝わりやすいようにピントを調節してあげるのです。
抽象化および具体化は、
「イメージが伝わりやすいように視点を上げ下げしながらピントを調節する作業」
だと理解しておけばいいでしょう。
「抽象と具体の間を往復する」というのもまさにこれです。
ピントを合わせるのと同様に、イメージの合いそうな言葉や概念を探るのです。
抽象と具体の間を往復すると、入ってくる情報の質や解釈の精度が高まり、結果として知的能力が拡大すると言われています。
抽象化思考が使えるようになればコミュニケーション能力も高まりそうだね。
その通り。相手のいる営業やプレゼンでは必須のスキルだと思うよ。
抽象化思考の流れ
対象の特徴的な要素や共通点・規則性などを見つけ出す
対象の特徴的な要素や対象が複数ある場合は共通点や規則性などを見つけ出します。
「どんな事象と似ているのか」「何か規則性はないのか」などと探っていきます。
本質的かつ重要と思われる要素のみを抜き出す
重要でない情報は取り除き、本質的な要素や着目している側面のみを抜き出します。
本質を際立たせてシンプル化または概念化する
抜き出した本質的要素をもとに、わかりやすい言葉で再定義したり、新しい概念を打ち立てたりします。
抽象化思考がもたらす効果やメリットとは
- 視野が広がる
-
抽象化思考を使って視点を上位に移すと視野が広がります。それによって、得られる情報や解釈の幅が広がり、異なる分野からも「構造的類似」を見つけられるようになります。
- 洞察力を高められる
-
抽象化思考によって洞察力を高められることが知られています。対象をシンプルに捉えることで知覚できる情報の質を向上させられるのです。
洞察力が高まると、ものごとの共通点や規則性に気づけるようになり、新しい法則や一般論の発見にもつながります。
- 本質が見抜けるようになる
-
抽象化によってものごとをシンプルに捉え、その本質を際立たせることができます。
ものごとの本質を見抜けるようになると「一を聞いて十を知る」といったことも可能になります。
抽象化思考を起点として展開できる思考法
- 帰納法(帰納的推論)
- アナロジー思考
- 問題解決のための仮説思考
帰納法(帰納的推論)
あらゆる論理的思考のベースにあるのは推論です。そのなかでも特に重要なのは「帰納法」だと言われています。
この帰納法を支えるのが抽象化思考です。
どういうことかと言いますと、まず帰納法というのは、「複数の事例から何らかの共通点や規則性を見出して、そこから一般論や法則を導き出す推論方法」です。
その際、事例の観察に抽象化思考を用いることで洞察力が増し、推論を支える共通点や規則性に気づきやすくなるのです。
この場合、抽象化思考は推論するための「下準備」になると言えるでしょう。
アナロジー思考
ものごとを抽象的に考えることで、遠く離れたもの同士の「共通点」や「類似点」に気づきやすくなり、普通では思いつかないような「類推」が可能となります。
傍から見れば斬新と思えるようなアイデアに結びつくこともあり、「アナロジー思考」と呼ばれています。
アナロジー思考って「謎かけ」に似てるよね。
「何々とかけて何々ととくその心は?」というアレだな。江戸時代くらいからあるみたいだぞ。
ものごとをあらかじめ抽象化しておくことで、普通では気づけないような異なる分野の構造的類似にも気づけるようになるのです。
「遠く離れたもの同士の共通点や類似点」というのは、構造的類似のことです。「遠く離れた」というのは、一見すると全くの別物に見えて類似点など想像できないことを意味します。
それが抽象化することで本質に目が行き、遠く離れたもの同士でも構造的類似に気づけるようになるのです。
抽象化って料理の「仕込み」みたいだね。
そう。だからこそアナロジー思考には抽象化が欠かせないんだ。
抽象化で得られた概念が的確であればあるほど、より遠く離れた分野からアイデアやソリューションを借りてくることが可能になります。
よくサスペンスドラマなんかで突拍子もないところから事件解決のヒントが降りてくるけど、あれもアナロジー思考なんだろうね。
問題解決のための仮説思考
抽象化思考で得られる上位概念から問題解決を考えることも可能です。
問題解決に挑むときは、まず適切な「問題設定」に向けて仮説思考を行うのが一般的です。
ザックリとした仮説を立てる前に、抽象化思考で視点を上位に移しておくと、ものごとの本質や構造に気づきやすくなり「筋のいい仮説」が立てられます。
筋のいい仮説は「筋のいい問題設定」につながり、問題解決にいたるまでの論理展開を支えてくれます。
抽象化思考は主にどんな目的で使われるのか?
- 自分の伝えたいニュアンスをより鮮明に表現したいとき
-
具体化や抽象化といった抽象度の上げ下げにより、自分の伝えたいニュアンスをより伝わりやすい形で表現することができます。
- 複雑な問題をよりシンプルかつ巨視的に捉え直したいとき
-
複雑な話はよりシンプルに「抽象化」「モデル化」するとわかりやすくなります。
たとえば算数や数学の文章問題を「図」で捉え直すのも、抽象化の一つと考えられます。
- 複数の事例やデータから何らかの法則や一般論を導きだそうとするとき
-
抽象化思考によって洞察力が高まると、ものごとの共通点や規則性に気づきやすくなります。
それが他の事象にも当てはまることが確認できれば、一般的な原理や法則の発見にもつながります。
複数の市場データから何らかの傾向や共通点を見出し、新しいコンセプトにつなげるのもそうした思考の一環です。
- 既存のものごとを「再定義」して商品開発や市場開拓に役立てたいとき
-
抽象化思考によって既存のものごとを見直して、新たに「再定義」することができます。
再定義が上手くいくと新商品の開発や新市場開拓のアイデアが生まれやすくなります。
※ ビジネスにおける再定義のプロセスには、多くの場合「STP分析」が併用されます。
- 問題解決において他分野のソリューションを適用できないか探るとき
-
抽象的な視点に立つことで対象への理解が深まり、直面している問題に「他分野のソリューションを適用できないか」などの判断がしやすくなります。
- ソリューション営業のためのセールストークやプレゼン内容を考えるとき
-
「顧客ニーズ」と「自社商品」の両方を抽象化し、そこに何らかの共通点を見出せば、同じような考え方を当てはめられるはずです。
たとえば、顧客ニーズを「一般的な問題」として捉え、その一般的な問題が自社商品で解決できることを示せば、商品提案する際の客観的な根拠となり得ます。
こうした客観的な商品説明や論理的なストーリー展開は、「ソリューション営業」にもつながります。
まとめ
- 抽象化思考は情報圧縮型の思考法だと言えます。
- 抽象と具体の間を往復するとピントが合ってきて「洞察力」が増します。
- 抽象化することで異なる分野のアイデアを他に当てはめやすくなります。